伊勢原の墓地は、午後になると風の音がはっきり聞こえる。 線香の煙が細く揺れ、その向こうで、木々の葉が擦れ合っていた。
祖父の墓は、いつも変わらない。 石の冷たさも、花立ての角度も、幼い頃から同じだ。 私は手を合わせ、何も願わず、ただ少しだけ頭を下げた。
帰り道、車を走らせていると、通り沿いに小さな看板が現れた。 森へ続く細道の入口に、控えめな文字で店名が書かれている。
葉っぱのきもち
以前から気になってはいたが、立ち寄る理由がなかった。 今日はなぜか、ハンドルを切るのに迷いがなかった。
駐車場はほぼ埋まっていて、名前と車のナンバーを書くよう促された。 昼を過ぎているというのに、人気は衰えないらしい。
しばらく車内で待っていると、森の奥から人影が現れた。 その瞬間、なぜか「迎えに来た」という言葉がしっくりきた。
玄関で靴を脱ぎ、スリッパを受け取る。 顔を上げると、木と布と乾いた植物に包まれた空間が広がっていた。 さらに奥、サンルーム越しには、まるで一枚の絵のような森がある。
席に着くと、ワンプレートランチの説明を受けた。 選べるキッシュは季節のもの。今日はコーンとベーコンだという。
運ばれてきた皿は、静かだった。 キッシュ、エビと春野菜のフリット、スパイスカレー、キャロットラペ、ひじきのサラダ。 どれも声高に主張せず、ただそこに在る。
キッシュを一口。 甘みと塩気が同時に広がり、思わず息がゆるむ。 サラダは瑞々しく、カレーは穏やかな辛さで、雑穀米とよく合った。
食べながら、祖父のことを思った。 この人は、こんな店を知っていただろうか。 きっと知らない。だが、もし連れてきたら、黙って全部食べただろう。
食後に頼んだ無花果のパウンドケーキとアイスコーヒーは、余韻のようだった。 甘さも苦さも、長く残らない。
窓の外で、葉が揺れている。 風の音が、言葉の代わりに何かを伝えている気がした。
墓参りの帰りに、こんな場所に立ち寄るとは思わなかった。 だが、祖父に報告するなら、こう言えばいい。
——今日は、いい休憩をした。
そう思いながら、私はゆっくりと席を立った。
