横浜に来た理由を、私はまだ自分でもうまく説明できなかった。 ただ、ここではないどこかに行きたかった。それだけだった。
ファーイーストビレッジホテル横浜。 予約サイトで偶然見つけ、深く考えずに決めた宿だった。
朝食を付けたのも、気まぐれに近い。 「横浜とシンガポールの味が少し楽しめます」 そんな一文に、なぜか心が引っかかった。
朝八時。 エレベーターを降りて二階のレストランに足を踏み入れると、 そこは拍子抜けするほど静かだった。 広い空間に、青い椅子が整然と並び、 白いタイルと銅色のランプが、朝の光を柔らかく反射している。
——誰もいない。
一瞬、来る時間を間違えたのかと思った。 でも、料理はすべて整っていて、 パンも、フルーツも、サラダも、 まるで「今から始まりますよ」と言わんばかりに綺麗だった。
サプリメントドリンクを注ぎ、 グラノーラにヨーグルトをかける。 マンゴーとフルーツポンチを少し。 アラジンのトースターで、クロワッサンを温める。
しばらくすると、 スタッフの声が聞こえた。
「おはようございます。ごゆっくりどうぞ」 「お料理、こちらもございます」
明るくて、押しつけがましくない声。 それだけで、胸の奥に溜まっていた何かが、 少しだけ緩んだ気がした。
十分ほど経つと、 他の宿泊客がぽつぽつと入ってきた。 でも、広い空間のおかげで、騒がしさはない。
シンガポールラクサをよそい、 湯気の立つスープを一口飲む。 ココナッツの甘さは感じるけれど、 海老や香辛料は控えめだった。
——少し、物足りない。
黒いカレーも、 思ったほど深みはない。 期待していた「異国の朝」には、 正直、届かなかった。
それでも不思議と、がっかりはしなかった。
納豆を混ぜ、 雑穀米にのせ、 味噌汁を飲む。
「こちらも補充しておきますね」 スタッフが笑顔で声をかけ、 手際よく料理を整えていく。
一時間以上経っているはずなのに、 どの料理も、まるで誰も手をつけていないかのように美しい。 ——ああ、だからさっきも綺麗だったんだ。
味よりも、 その気遣いが、胸に沁みた。
誰かに何かをしてもらうこと。 ただ、当たり前のように優しくされること。
それを、私はずいぶん久しぶりに受け取っていた。
最後に牛乳を一口飲み、 小さく息を吐く。
「ごちそうさまでした」
心の中でそう言うと、 少しだけ、肩が軽くなっているのに気づいた。
——大丈夫。 今日の横浜、歩いてみよう。
窓の外には、 朝の光に照らされた街が広がってい
