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ブルーニ
神奈川 茅ヶ崎スリランカカレー

混ぜるほど、近くなる

by 匿名2026年1月17日

年が明けて三日目。 川崎からこの街に引っ越してきて、もう数年になる。 正月らしい正月を過ごした記憶は薄く、気づけば今日も、夫婦二人で並んで歩いていた。

このあと寒川神社に行く予定だ。 初詣としては少し遅いけれど、混雑を避けたかったというのが本音で、どちらが言い出したわけでもない。 会話は特にない。 長年一緒にいると、言葉は減り、沈黙は重たくも軽くもなく、ただそこにある空気のようになる。

神社へ向かう途中、見慣れない小さな店が目に入った。 スリランカカレー。 前に雑誌で見た気もするけれど、ちゃんと来たのは初めてだ。

「ここ、入ってみる?」 珍しく、妻が先に口を開いた。 私はうなずくだけで、暖簾をくぐった。

店内はこぢんまりとしていて、スパイスの香りがやわらかく鼻をくすぐる。 店主は気さくで、料理の説明を丁寧にしてくれた。 最初に出てきた、ほんのりピンク色の水。 健康にいいらしい、と聞いて、二人で同時にグラスを口に運ぶ。

ワンプレートに盛られたカレーは、色とりどりだった。 チキンとポーク、豆や野菜、酸味のある副菜、パリッとしたパパダム。 私はスパイス多めのチキンを選び、妻は違うライスを選んだ。 自然と、互いの皿を見比べる。

「少し交換する?」 そんな一言で、スプーンが交差する。

辛くないのに、じんわり汗が出る。 重くない。 胃に負担がかからず、体の奥から温まる感じがした。 それぞれを少しずつ味見したあと、店主に勧められるまま、すべてを混ぜる。

混ぜるほどに、味がひとつになっていく。 どれが主役かわからなくなるのに、不思議とまとまっている。

「不思議だね」 妻がぽつりと言った。

私はその横顔を見て、ふと思った。 こうして一緒に混ざり合ってきたのが、私たちなのかもしれない。 個々の主張は薄れて、境目も曖昧で、でも確かに一皿として成立している。

最後にホッダを少しかけると、味がまた変わった。 さっきまで気づかなかった酸味や優しさが、ふわりと前に出てくる。

食べ終わる頃、体も心も軽くなっていた。 店を出ると、冬の空気は冷たいが、どこか澄んでいる。

「寒川神社、ちゃんと手を合わせようか」 私が言うと、妻は少しだけ笑った。

歩き出す。 肩が触れそうで触れない距離。 それでも、さっきより近い。

空気みたいだと思っていた存在が、 実は、ずっと温度を持ってそばにいたことに、 スパイスの余韻と一緒に、ようやく気づいた。

飲食店短編小説

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