横浜の海岸通り、潮の香りと歴史が混ざり合う場所に、その場所は静かに佇んでいます。ホテルニューグランド。山下公園の緑を挟んで海を臨むその建物は、時代の荒波をくぐり抜けてきた貴婦人のような気品を漂わせています。 黄昏のプロムナード 重厚な回転ドアを抜けると、そこには外の喧騒とは切り離された、琥珀色の時間が流れていました。開業当時から変わらぬタイル張りの大階段を上り、本館の静寂に身を委ねます。 目的地は、その一角に潜むバー**「シーガーディアン II」**。 重い木製の扉を開けると、カウンターの向こうで磨き上げられたグラスが、控えめな照明を受けて星のように瞬いていました。深い藍色の絨毯は足音を吸い込み、客たちは皆、自分だけの夜を慈しむように声を潜めています。 琥珀色の沈黙 「いらっしゃいませ」 低く、落ち着いた声に迎えられ、私はカウンターの隅に腰を下ろしました。 注文したのは、この場所を象徴するカクテル。かつてサマセット・モームも愛したと言われる一杯です。 バーテンダーの無駄のない動き。シェイカーが氷を鳴らす音だけが、心地よいリズムを刻みます。差し出されたグラスの中で、冷えた液体が静かに揺れていました。 「この一杯には、横浜の記憶が溶け込んでいる」 ふと、そんな言葉が頭をよぎります。窓の外には、ベイブリッジの灯りが海面に長い尾を引き、氷がグラスに当たる小さな音が、夜の静寂をいっそう深く際立たせていました。 夜の終わり 一杯を飲み終える頃には、日常の尖った感情はすっかり丸くなり、温かな充足感に包まれていました。 店を出て、夜の山下公園を少しだけ歩くことにしました。振り返れば、ライトアップされたニューグランドの窓明かりが、まるで宝石箱のように夜の闇に浮かんでいます。 ここは、単に酒を飲む場所ではありません。
