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レトロ自販機コーナー
神奈川県相模原市レトロ自販機

雪のレトロ自販機と僕らの卒業

by 匿名2026年3月14日

大学の卒業式を数日後に控えた冬の朝。 まだ夜が完全に明けきらない時間、僕と浩太はバイクで相模原の山の方へ向かっていた。

「寒っ…」

信号で止まるたびに、白い息がヘルメットの中に広がる。 気温はきっと氷点下に近い。

今回のツーリングの目的は、ずっと気になっていた場所。 レトロ自販機が並ぶという、少し変わったスポットだった。

道に迷いながらも、なんとかたどり着いたのは朝6時30分。 2月の終わりの空気は刺すように冷たい。

エンジンを切ると、周囲は妙に静かだった。

「…ここだよな?」

浩太が指さす先には、 暗がりの中でぼんやり光る自動販売機の列。

近づいた瞬間、思わず笑ってしまった。

「うわ……」

想像していたより、はるかに多い。

古びた自販機がずらりと並び、 飲み物、アイス、ポップコーン、ハンバーガー、トースト、うどん、そば――

昭和のまま時間が止まったみたいだった。

「これ、全部動いてるの?」

「たぶんな」

ただ、早すぎたのか、 目当てのボンカレーやトーストサンドは売り切れランプ。

浩太が肩をすくめた。

「来る時間、ミスったな」

それでも、見ているだけで楽しい。

懐かしい缶のデザイン。 見たこともない飲み物。 硬貨を入れても、なかなか認識しない古い機械。

「これ、100円入れても反応しないんだけど」

「昭和の気まぐれだろ」

二人で笑う。

結局、買えたのは一つだけ。 天ぷらそば。

機械の中で「ガチャン」と音がして、 ゆっくりと出来上がる。

取り出すと、湯気が立った。

「一杯しかないな」

「半分こな」

僕たちは外のベンチに座り、 その一杯を二人で分けた。

湯気の向こうに並ぶ自販機の光。

その時だった。

ふわり、と 白いものが落ちてきた。

「……雪?」

空を見上げると、 細かい雪が静かに舞い始めていた。

浩太が箸を止める。

「俺ら、もうすぐ社会人だな」

ぽつりと言った。

お互い就職は決まっている。 春から別々の会社、別々の街。

「なんか実感ないな」

「正直ちょっと怖い」

浩太は笑いながら言った。

「でもさ」

僕は残りのそばをすすった。

外で食べる天ぷらそばは、 やたらと美味かった。

「今日みたいな日、忘れなければ大丈夫な気がする」

浩太は少しだけ黙って、 そして頷いた。

雪は少しずつ強くなり、 自販機の光の中で静かに舞っている。

昭和の機械が並ぶ場所で、 僕たちは未来の話をしていた。

食べ終えたカップをゴミ箱に入れ、 バイクにまたがる。

エンジンをかけると、 朝の冷たい空気が震えた。

「行くか」

「行こう」

レトロ自販機の光を背に、 僕たちはゆっくりと走り出した。

社会に出る不安と、 少しの期待を乗せて。

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コメント (1件)

エリカ(2026/03/15)

雪の中で食べる天ぷらそば、最高に美味そうです。卒業前の大切な時間が凍るような静寂と温かさの中で刻まれていく…そんな情景が目に浮かびました。素敵なストーリーをありがとうございます!

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