神楽坂の路地裏、新しい「神楽坂 茶寮 本店」の暖簾をくぐると、外の喧騒が嘘のように消えた。 美咲は少し緊張していた。今日は、疎遠になっていた大学時代の友人、陽子と数年ぶりに会う約束をしていたからだ。 「お待たせ、美咲!」 やってきた陽子は、昔と変わらない弾けるような笑顔だった。二人は窓際の席に座り、運ばれてきた**「saryoパフェ」**を前に感嘆の声を上げる。
鮮やかな抹茶のアイス、つやつやした白玉、丁寧に重ねられたゼリーの層。スプーンを入れるのがもったいないほどの造形美だ。 「これ、食べるのがもったいないね」 「本当。でも、一口食べたら止まらなそう」
美咲が一口食べると、濃厚な抹茶の香りが鼻を抜け、上品な甘さが口いっぱいに広がった。添えられた温かい**「織部茶」**を飲むと、少しずつ心のこわばりが解けていくのがわかった。
最初は近況報告のような、どこか余所余所しい会話だった。けれど、パフェの層を掘り進めるごとに、話題も深くなっていく。仕事の悩み、将来への不安、そしてあの日言えなかった「ごめんね」の言葉。 「あの時、私、意地を張っちゃって」 「ううん、私もよ。でも、今日こうして美味しいもの食べて笑えてるから、もういいじゃない」 陽子がそう言って抹茶のガトーオペラを口に運ぶ。その幸せそうな顔を見て、美咲は、この場所を選んで良かったと心から思った。
神楽坂の静かな午後。 甘い抹茶の香りと、少しの苦味。 それは、大人になった二人の友情に、ちょうどいい味わいだった。
