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つばめKITCHEN アトレ品川店
東京品川ハンバーグレストラン

ハンバーグの香り、タイミー帰りの缶コーヒー

by クーミン2026年5月16日11

品川駅の港南口は、夜になると少しだけ寂しい。 仕事帰りのスーツ姿が流れていく中で、自分だけがどこにも向かえていない気がしていた。

少し前まで、俺は都内のIT会社で働いていた。 AI導入による事業再編——綺麗な言葉に言い換えればそうなるが、要するに「もうあなたの仕事はいらない」ということだった。

四十を過ぎてからの早期退職。

退職金を元手にフリーランス営業を始めたものの、現実は厳しかった。 メールを送っても返事は来ない。 紹介も続かない。 「今はAIでできますよね?」 悪気のないその言葉に、少しずつ自信が削れていった。

気づけば、生活費を埋めるためにタイミーを開く毎日になっていた。

その日入ったのが、つばめキッチン アトレ品川店だった。

ホール接客。 これまでの人生で、まともにやったことのない仕事だった。

「お待たせしました、こちらハンブルグステーキです」

ぎこちない声。 皿を置くタイミングも難しい。 客の動きも読めない。 厨房から飛ぶ指示に頭が追いつかず、何度も動きが止まった。

そんな時だった。

「大丈夫っす、自分やりますよ」

絶妙なタイミングで横からフォローしてくれる青年がいた。 黒髪の、まだ二十代前半くらいの男だった。

水を出し忘れそうになると、自然にフォロー。 料理を迷えば、さっと動線を空ける。 客席が詰まりそうになると、何も言わず先回りする。

社員かと思った。

休憩中に聞くと、彼もタイミーだった。

「いろんな店入ってるんですよ。将来、自分の店やりたくて」

紙コップの水を飲みながら、彼は笑った。

「店によってオペレーション全然違うんで、勉強になるんすよね」

夢を追っている人間の目だった。

その瞬間、自分の胸の奥が少し痛んだ。

——自分はどうだろう。

毎日を、ただやり過ごしているだけじゃないか。

AIに仕事を奪われた。 景気が悪い。 年齢が厳しい。

理由はいくらでも並べられる。

でも、本当は、立ち止まったままなのは自分自身だった。

営業が終わりに近づいた頃、客席からデミグラスソースの香りが漂ってきた。

名物の「つばめ風ハンブルグステーキ」。

銀色のアルミホイルをナイフで開くと、ふわっと白い湯気が立ち上がる。 濃厚なデミグラスの匂い。 肉汁をまとったハンバーグ。 上に乗った柔らかなビーフシチュー。 付け合わせのじゃがいもは、皮までホクホクしていた。

客席の家族連れが笑っていた。

「わぁ、美味しそう」

その声を聞いた時、不意に昔の記憶が蘇った。

小さな町工場だった。 昔、自分が作った簡単な在庫管理システム。

紙とFAXだけでやっていた年配の社長と事務員さんが、

「これでめちゃくちゃ楽になったよ」

と、本当に嬉しそうに笑ってくれた。

あの時、自分も嬉しかった。

売上とか、効率とか、そんなことより。

“誰かの役に立てた”

その感覚が、たまらなく嬉しかった。

——そうだ。

自分は、本当はまた誰かの助けになりたかったんだ。

そう思った瞬間、胸の奥に、少しだけ熱が戻るのを感じた。

閉店後、青年と一緒に駅へ向かった。

夜の品川駅。 人の流れ。 発車ベル。

改札前の自動販売機で、彼が突然言った。

「お疲れ様でした。これ、飲みます?」

気づけば、温かい缶コーヒーを手渡されていた。

「いや、悪いよ」

「いいっすよ。今日めっちゃ頑張ってたじゃないですか」

年齢なんて、二十も離れている。

奢る側だったはずの人生で、 奢られる側になった自分が少し情けなくて、 でも、その缶コーヒーは不思議なくらい温かかった。

ホームへ向かう途中、缶から立ちのぼる湯気を見ながら思った。

人生は、まだ終わっていないのかもしれない。

あの日、品川駅で飲んだ缶コーヒーの味を、 きっと俺は、一生忘れない。

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