去年、私は婚活パーティーに三十回参加した。
戦績、三十戦三十敗。
ここまでくると、もはや様式美である。
そして今年。
私は再び会場へと向かった。
理由は単純だ。
人は簡単には諦めない生き物だからである。
現実から目を逸らす能力において、私はかなり優秀だった。
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婚活パーティーは今年も平常運転だった。
全員が少し緊張し、 全員が少し笑顔を作り、 全員が少し自分を良く見せる。
私は今年も、
・無難な会話 ・無難な笑顔 ・無難な撃沈
を完璧にこなした。
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結果発表。
私の番号は、やはりどこにもなかった。
安定の敗北である。
もはや動揺すらない。
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帰り道。
心が塩分を欲していた。
こういう日は、なぜか塩っぽいものが食べたくなる。
人生の敗北と塩味には、深い関係があるのかもしれない。
私は蒲田で途中下車した。
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赤い看板。
鳥貴族。
吸い込まれるように入店。
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店内は賑やかだった。
笑い声。 乾杯の音。 人生を謳歌している人々。
私は静かに一人席へ座る。
この仕切りが実にありがたい。
世界と適度な距離を保てる。
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ハイボール。
モモ焼き鳥、たれ。
運ばれてきた皿を見て、私は思った。
やはり2本。
鳥貴族は、なぜいつも2本なのか。
私は完全に一人なのに。
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その時だった。
隣の席に女性が座った。
30代くらい。
ややふっくら。
どこか、やすこ似。
柔らかい空気感。
安心感の塊のような存在。
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ふと目が合う。
女性が軽く微笑む。
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「一人なんですか?」
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まさかの会話発生。
私は少しだけ背筋を伸ばした。
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「ええ……まあ……人生いろいろありまして」
便利な言葉である。
人生いろいろ。
だいたいのことはこれで誤魔化せる。
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女性はクスッと笑った。
会話が続く。
自然に続く。
不思議なほど続く。
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(……これは……?)
去年三十連敗した男の心に、 静かなざわめきが生まれる。
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(もしかして……)
(これは……)
(運命的な……)
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その時だった。
後ろから声がした。
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「お待たせー」
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振り返る女性。
立っていたのは、
ガッチリした体格の男。
どう見ても勝者側の人間。
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「ごめんね、ちょっと遅れちゃって」
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女性が自然に答える。
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「ううん、大丈夫」
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そして一言。
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「旦那。」
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……。
…………。
……………………。
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私は静かにハイボールを飲んだ。
焼き鳥は今日も2本。
人生も今日も苦い。
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「……まあ、そういう日もある」
私は誰に言うでもなく呟いた。
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鳥貴族の店内は変わらず賑やかだった。
私の恋愛運だけが、今日も静まり返っていた。
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私は焼き鳥を一本食べた。 ⸻ もう一本は、 まだ残っている。 ⸻ そういうことに、しておこう
