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黒船屋 成瀬店
東京町田 成瀬焼肉屋

駅前0分の至福、黒船屋の厚切りタン

by 匿名2026年2月9日

成瀬駅の改札を出て南口へ向かう。時刻は21時を過ぎていた。今日の商談はタフだった。神経をすり減らし、体は鉛のように重い。空腹が限界を訴えかけていたその時、駅前のビルの1階から、炭火で肉が焦げる香ばしい匂いが漂ってきた。「黒船屋」の看板が、疲れたサラリーマンの心と胃袋を鷲掴みにした。

店内は落ち着いた照明で、広々とした席が並んでいる。一人の客も多いようで、気兼ねなく入れそうだ。席に着き、とりあえずの生ビールと、メニューで一番目を引いた「厚切り上タン塩」を注文した。

すぐに運ばれてきたビールで喉を潤すと、七輪が目の前に置かれた。赤々と燃える炭火が、冷えた体に心地よい。そして、主役の登場だ。皿に盛られた牛タンは、その名の通り驚くほど分厚い。美しいピンク色に、細かく入ったサシ。焼く前からその質の高さが伝わってくる。

トングで一枚掴み、熱された網の上に乗せる。ジューッという音と共に、白い煙が立ち上った。炭火の遠赤外線が、肉の旨味を内側に閉じ込めていく。表面にこんがりと焼き目がついたら、そっと裏返す。もう片面も焼けたら、別注文したレモンをきゅっと絞り、そのまま口へと運んだ。

――衝撃だった。

歯を入れた瞬間、サクッとした心地よい食感があり、次の瞬間、ジュワッと濃厚な肉汁が口の中いっぱいに溢れ出した。分厚いにも関わらず、驚くほど柔らかい。噛むほどに、牛タン特有の旨味と、炭火の香ばしさが鼻へと抜けていく。

「うまい……」

思わず声が漏れた。仕事の疲れも、上司の小言も、全てが吹き飛んでいくような感覚。ただひたすらに、目の前の肉と向き合う至福の時間。

もう一枚、また一枚と焼いては口に運ぶ。ビールが進む。最後のタンを飲み込む頃には、入店時の疲労感は嘘のように消え去り、腹の底から力が湧いてくるのを感じた。

「ごちそうさまでした」

会計を済ませ、店を出ると、夜風が心地よく頬を撫でた。明日もまた頑張ろう。そう思えるだけの活力を、この店の牛タンは与えてくれた。

この物語に

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