少し早起きをした朝、午前中に片づけたい仕事を抱えて、デニーズ横浜日野店に立ち寄った。
サニーサイドアップモーニングを注文すると、眠った頭を起こすため、真っ先にドリップコーヒーを取りに行く。
席へ戻る途中、ふと店内を見渡した。
年寄りばかりだった。
向かい合って静かに朝食を取る老夫婦。会社という場所から離れ、自由な時間を手に入れたらしい男性四人組。そして一番多いのは、一人で来ている客だった。
皆、いつもの席に座る常連なのだろう。店員とも顔なじみらしく、短い挨拶を交わしている。
けれど、そこに悲壮感はなかった。
聞こえてくるのは、病気や老後への嘆きではなく、昨日見たテレビの話、孫の話、昔の失敗談。そして、何度も繰り返される楽しそうな笑い声だった。
一人で来た老人も、決して孤独には見えない。新聞を広げ、コーヒーをひと口飲み、時折、顔なじみに手を上げる。
私は仕事の資料を開いたものの、しばらく手が止まっていた。
若い頃は、歳を取ることは、何かを失っていくことだと思っていた。
けれど、この店に集まる人たちを見ていると、そうではないのかもしれない。
急がなくてもいい朝を知り、何気ない会話のありがたさを知り、一杯のコーヒーをゆっくり味わえるようになる。それもまた、長く生きた人だけが手にできる豊かさなのだ。
やがて、老夫婦が席を立った。
夫が妻の上着をそっと持ち、妻は当たり前のように、その腕につかまった。
何十年も繰り返してきた朝の続きのように、二人はゆっくりと店を出ていった。
窓の外には、やわらかな朝の光が差していた。
私は冷めかけたコーヒーを飲みながら思った。
歳を重ねるのも、悪くない。
いつか私も、こんな朝の風景の一人になれたらいい。 誰かと笑い、一人の時間も楽しみながら、今日もここに来られたことを、静かに喜べる人になれたらいい。
デニーズの朝は、人生の夕暮れではなかった。
それは長く歩いてきた人たちだけが迎えられる、もう一つの穏やかな朝だった。
