今日は、仕事をずる休みした。 別に嫌なことがあったわけでも、心が折れたわけでもない。 疲れている、というほどでもない。
ただ、なんとなく。 理由があるとすれば、それは「葉山の海が見たかった」くらいのものだった。
ハンドルを握り、音楽もつけずに車を走らせる。 信号待ちのたびに、会社のメールや未読の通知が頭をよぎるけれど、 今日はそれらを一つずつ、丁寧に無視した。
海沿いの道を少し外れ、山の気配が濃くなった頃、 白くて、やけに明るい建物が目に入った。 コーヒーカップの看板と、バイク。 理由はそれだけで十分だった。
「ちょっと、入ってみようか」
カフェは、天井が高くて、光が多かった。 白を基調にした空間に、木のテーブルと椅子。 そして、ところどころに置かれたバイクが、 ここがただの“おしゃれな店”ではないことを静かに主張している。
カウンターでラテを注文する。 現金は使えないらしい。 そういうルールさえ、今日は心地よい。
二階に上がると、ひとり掛けのソファがいくつも並び、 まるで誰かのアトリエか、週末だけ開く秘密基地みたいだった。 窓から差し込む光の中で、時間が少しだけ緩む。
ラテをひと口。 香りが、深くてやさしい。 仕事のことも、今日が平日だという事実も、 その一瞬だけ、どうでもよくなる。
「ずる休みも、悪くないな」
次はラベンダーラテにしよう。 ワッフルも食べてみよう。 そんな未来の予定を、久しぶりに楽しみに思えた。
帰り際、外に停められたバイクを眺めながら、 ここに“偶然”立ち寄れた今日を、少し誇らしく思った。
理由のない一日。 でも、ちゃんと意味のある時間。
明日は、ちゃんと仕事に戻ろう。 たぶん。 きっと。
そう思いながら、私はまた、葉山の道を走り出した。
