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Felicity
横須賀 葉山カフェ

ずる休みの理由

by 匿名2025年12月29日

今日は、仕事をずる休みした。 別に嫌なことがあったわけでも、心が折れたわけでもない。 疲れている、というほどでもない。

ただ、なんとなく。 理由があるとすれば、それは「葉山の海が見たかった」くらいのものだった。

ハンドルを握り、音楽もつけずに車を走らせる。 信号待ちのたびに、会社のメールや未読の通知が頭をよぎるけれど、 今日はそれらを一つずつ、丁寧に無視した。

海沿いの道を少し外れ、山の気配が濃くなった頃、 白くて、やけに明るい建物が目に入った。 コーヒーカップの看板と、バイク。 理由はそれだけで十分だった。

「ちょっと、入ってみようか」

カフェは、天井が高くて、光が多かった。 白を基調にした空間に、木のテーブルと椅子。 そして、ところどころに置かれたバイクが、 ここがただの“おしゃれな店”ではないことを静かに主張している。

カウンターでラテを注文する。 現金は使えないらしい。 そういうルールさえ、今日は心地よい。

二階に上がると、ひとり掛けのソファがいくつも並び、 まるで誰かのアトリエか、週末だけ開く秘密基地みたいだった。 窓から差し込む光の中で、時間が少しだけ緩む。

ラテをひと口。 香りが、深くてやさしい。 仕事のことも、今日が平日だという事実も、 その一瞬だけ、どうでもよくなる。

「ずる休みも、悪くないな」

次はラベンダーラテにしよう。 ワッフルも食べてみよう。 そんな未来の予定を、久しぶりに楽しみに思えた。

帰り際、外に停められたバイクを眺めながら、 ここに“偶然”立ち寄れた今日を、少し誇らしく思った。

理由のない一日。 でも、ちゃんと意味のある時間。

明日は、ちゃんと仕事に戻ろう。 たぶん。 きっと。

そう思いながら、私はまた、葉山の道を走り出した。

この物語に

Felicity

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