元日の日比谷は、驚くほど静かだった。 人も少なく、開いている店もまばらで、街全体がまだ眠っているように見えた。
自分はというと、去年と同じように、なんとなく年を越しただけだった。 特別な抱負もなく、「どうせ今年も同じだろう」という気持ちが、コートの内側に残っていた。
そんなとき、日比谷ミッドタウンの前で、寒空の下にできた小さな行列を見つけた。 元日にもかかわらず、人が並んでいる。 理由もなく、その列の最後尾に立った。
並んだ先は、ティム・ホー・ワン 日比谷店。 香港で名を馳せた点心の店だということは知っていたが、これまで行列のイメージが強く、足が向かなかった店だった。
店内に入ると、外の寒さが嘘のように、あたたかな空気が広がっていた。 スタッフの動きは無駄がなく、言葉は少ないが、どこか気持ちのいいサービス。 日本にいながら、外国の街角に迷い込んだような、不思議な感覚があった。
運ばれてきた料理は、どれも静かに美味しかった。 派手さはないが、丁寧で、安心できる味。 春巻きの軽さ、腸粉のやわらかさ、粥のやさしい温もり。 気づけば、体だけでなく、気持ちまで温まっていた。
「めちゃくちゃうまい」というより、 「ちゃんと美味しい」。 その正直さが、この店の完成度なのだと思った。
一人で来たから、注文できたのは少しだけ。 でも、だからこそ、余白が残った。 次は誰かと来て、もっと色々頼もう。 そんな未来の予定が、自然と頭に浮かんだ。
この店に出会い、この空間に座り、この元日を過ごしたことで、 不思議と、今年は少し違ってもいい気がしてきた。
大きな目標じゃなくていい。 でも、去年と同じ気分のままでは終わらせない。 そんな小さな決意を、温かい点心の余韻と一緒に、胸にしまった。
元日の行列は、 今年最初の目標を立てるための、静かなスタートラインだった。
