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ハングリータイガー保土ヶ谷本店
横浜 保土ヶ谷ハンバーグレストラン

変わらない席

by 匿名2026年1月9日

ハングリータイガー保土ヶ谷本店にて

入口の看板を見た瞬間、胸の奥が少しだけ揺れた。

ハングリータイガー保土ヶ谷本店。 昭和のまま時間が止まったような佇まいは、記憶の中の風景とほとんど変わらない。

今は、隣に妻がいて、前には子供がいる。 家族三人で来るこの店は、昔とは立場も役割も違うはずなのに、足を踏み入れた瞬間、時間が重なった。

扉を開けると、炭火で焼かれる肉の匂い。 少し暗い店内、広いホール、中央のトーテムポール。 意味も分からず、ただ見上げていた頃の自分が、確かにここにいた。

席に案内される。 ベスト姿の店員の所作は、驚くほど記憶通りだ。 水を置くタイミングまで、変わっていない。

ハンバーグが運ばれ、目の前で二つに割られる。 ジュウッという音。 肉汁が鉄板に落ちる。

その瞬間、ふと視線を感じた。

向かいの席に、子供の頃の自分が座っている。 足は床に届かず、背筋を伸ばし、ナイフとフォークを握っている。 緊張した表情で、皿の上のハンバーグを見つめている。

言葉は交わさない。 ただ、視線が重なる。

「静かにしなさい」 「こぼさないように」 そんな声が、どこからか聞こえた気がした。

あの頃、この店は“特別な場所”だった。 理由は分からないが、背筋を伸ばさなければならない場所。 大人の世界に、少しだけ触れる場所。

今は違う。 同じ店で、今度は自分が親として座っている。

向かいを見ると、妻が子供にナイフの持ち方を教えている。 その様子を、子供の頃の自分が、黙って見ている。

何も言わない。 責めもしない。 期待もしない。

ただ、確かめるような目だった。

やがて、視線を外した瞬間、 そこにはもう、子供の頃の自分はいなかった。

鉄板の上では、ハンバーグが静かに音を立てている。 昔と同じ味。 昔より、重みのある味。

ここは、肉を食べる店じゃない。 時間が、折り重なる場所だ。

ナイフを入れながら、そう思った。

きっとまた来る。 今度は、この子が少し大きくなってから。

そのときも、ハングリータイガーは変わらず、 ただそこにあるだろう。

この物語に

ハングリータイガー保土ヶ谷本店

コメント (1件)

ハングリータイガー大好き(2026/01/11)

感動しました。

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