昼下がりの関内。 仕事の合間に三人が集まるのは、学生時代から変わらない習慣だった。
スパイスの香りがやわらかく広がる店内で、三つのトレイが並ぶ。ビリヤニはさらりと湯気を立て、ラッサムはトマトの赤を揺らしている。 「相変わらず、いい匂いだね」 そう言ったのは、いちばん口数の少ない彼女だった。
二人の間に、薄い膜のような緊張があることを、もう一人はずっと感じていた。最近、視線がぶつかっては逸れ、会話が途中で切れる。理由は聞かなくても分かっている気がした。 ――彼氏のことだ。
スプーンでビリヤニをすくい、ミントのソースを少しだけ落とす。辛みが立ち、次の瞬間、香りがすっと引く。 「ねえ」 彼女は静かに切り出した。 「勘違いしてるかもしれないけど、何もないよ。あの人とは」
チキンカレーの深い色が、光を吸い込む。マトンのコク、海老炒めの鋭い辛さ、ココナッツの甘い余韻。三人は黙々と食べ、ラッシーで舌を休めた。 「疑うの、疲れるでしょ」 彼女は笑った。 「私たち、カレーみたいに混ぜたら元に戻れる」
最後に、すべてを混ぜる。辛さも甘さも一緒になる。 「ああ、これだ」 誰かが言って、三人で笑った。
仕事に戻る時間が来る。 外に出ると、関内の空は少し軽くなっていた。 いつもの三人に、ちゃんと戻っていた。
