学生だった頃、 俺たちのたまり場は、ダイクマの前のケンタッキーだった。
放課後に制服のまま集まって、 油の匂いが染みついたエプロンを外し、 「今日、海行く?」 その一言で夜の予定が決まった。
バイト同士で花火をした。 線香花火が落ちるまでの沈黙が、やけに長く感じられた夜もあった。 誰かが誰かを好きになって、 それがバレて、 喧嘩して、 次の日には何事もなかったように一緒に働いた。
あの頃の茅ヶ崎は、 未来なんて考えなくてよかった街だった。
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それから四十年以上が経って、 久しぶりに降りた茅ヶ崎駅は、 すっかり別の顔をしていた。
木造だった駅舎は姿を消し、 イトーヨーカドーも、もうない。 見慣れたはずの風景が、 記憶よりずっと整っていて、 その分、少しだけよそよそしかった。
「こんな街だったっけな」
そう思いながら歩いていると、 そこに、ぽつんと残っていた。
食堂 都
看板も、店構えも、 時間に置いていかれたみたいに、 ちゃんと、そこにあった。
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冷やし中華を頼んだ。 1,050円。 昔より高くなったはずなのに、 丼の前に座ると、なぜか高いとは思わなかった。
刻みチャーシュー、錦糸卵、きゅうり、キャベツ、ナルト。 酸味のきいたつゆが、 夏の記憶をそのまま連れてくる。
麺は相変わらず多い。 「普通が大盛り」 その感じも、変わっていない。
店内は古い。 テレビは角の上。 カウンター、テーブル、座敷。 小さい虫が一匹、ふわりと飛んでいた。
でも、不思議と嫌じゃなかった。 生きてる店だな、と思った。
隣の客のサンマーメンが、 大げさなくらい大きくて、 思わず笑ってしまう。
次はチャーハン。 いや、かつ丼もいい。 塩鯖定食も、味噌汁がうまいって聞いた。
未来の予定なんて、 久しぶりに、どうでもよくなった。
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街は変わる。 建物も、人も、役割も、 気づけば全部入れ替わっている。
でも、 変わらない味がある場所では、 自分だけは、ちゃんと元に戻れる。
時間に勝つんじゃなくて、 時間と一緒に生きてきたものだけが、 こうして、今もそこにある。
それがある限り、 俺たちの青春は、 まだ終わっていない。
